2025.01.14 Tue

クチポールの伝統・技術とその魅力

こんにちは。日曜社です。
今回はクチポールについてもっとみなさまに知っていただきたく、クチポール社のOperations Manager(運用責任者)を務めるJoao Ribeiro(ジョアオ・リベイロ)さんによる、クチポールの伝統やデザインについてのインタビューをご紹介します。

ジョアオイメージ

クチポール ジョアオ・リベイロさん

 

クチポールは1960年代に創業した会社ですが、その職人技とデザイン性はまるで何世代も続く老舗のような印象を与えます。ポルトガルのカトラリー作りの伝統が背景にあると聞いていますが、クチポールがその伝統をどのように製造プロセスやデザインに取り入れているのか教えてください。

ポルトガルのカトラリー作りには歴史的なルーツがあります。武器を参考に骨抜きや皮むきなどの食事用の道具が製造されたと言及している古い資料も存在しています。特に、クチポールのあるギマランイス地区には1250年にはカトラリーが作られており、1401年にはカトラリー作りの町があったということもわかっています。私たちの土地には本当に昔からカトラリーの職人技が根づいているのです。

クチポールの歴史イメージ

ギマランイス地区でカトラリー製造が始まった当初の様子

このような恵まれた環境で、私たちクチポールは伝統的な技術と現代的なプロセスを組み合わせています。つまり、私たちはノウハウに基づく独創性といいますか、「サヴォアフェール」といいますか、そのような匠の技術に恵まれているといえます。
クチポールの製品は職人の手作りの技術が反映されているので、私たちが若い職人たちを育成することによって、職人技というポルトガルの文化遺産の継承にも貢献していると自負していますし、それが私たちのミッションの一つと考えています。

 

クチポールは創業家一族による経営が続く数少ない企業かと思います。家族経営の特徴はどのようなところでしょう?

大手メーカーと私たちクチポールの違いは、従業員が近い関係にあるということだと思います。良好な労働環境のもと、お互い信頼関係が厚く経営陣との関係もフラットなので、問題が起きたときにもみんなで迅速に解決することができます。

クチポール経営者ファミリー

クチポール 経営者ファミリー

この企業文化は、創業者である私の祖父母、特に祖母に負うところが大きいと思います。祖父はカタログとサンプルを持って小さな車で国内を飛び回っていたのですが、私の祖母、アリス・マルケスは工場のリーダーとして従業員全員と特別な関係を築いてきました。私は祖母が従業員に「第二のお母さん」と呼ばれているのを見てきました。こうした環境なので、家族ぐるみで働いている従業員が多く、これもクチポールの特徴かと思います。家族や友人をクチポールへの就職に誘ったり、引退前に孫に技術を教えておきたいという人もいます。

いまの世代=私の母や叔父たちの世代では、オリジナルのデザインへの投資、新技術の導入、海外への販路拡大などプロフェッショナルな経営方式を取りながら、世界的に知られるブランドへ発展しました。短期間にこのような発展ができたのも、クチポール全体に親密な雰囲気があり、経営陣と従業員の間にも従業員同士にも強い信頼関係があってこそですし、クチポールが世界的ブランドになったことで、従業員のモチベーションや誇りもさらに高まりました。

こうした職場環境は、問題解決や危機に直面したときにも大きな助けとなります。コロナ下にロックダウンがあったとき、多くの工場が長期休業や従業員の解雇までしなければならなかった状況でしたが、クチポールではお客様のご要望に応えられるよう工場を動かし続けることができました。お互いへの信頼感、クチポールへの誇りがあってこそ私たちはあの困難な時期を乗り越えられたのだと思います。

 

家族経営以外に、クチポールとヨーロッパの他のカトラリーメーカーとの違いはなんでしょうか。

正直に申しますと、私には他社に関する知識があまりありませんので、確固たる意見は持っておりません。ただ、ひとつ言えることは、クチポールは自社での製造ができているため、デザインから最終工程まで、カトラリー製造のすべての側面を熟知している点で、他のメーカーと一線を画しているということです。機械化・自動化できない工程には熟練の技術者が必要ですし、修業ができる環境も必要ですが、それがクチポールには備わっています。

つまり、独自のデザインと高品質な職人技を活かせる包括的な製造環境にあるので、原料の選択、人間工学的な機能性、耐久性、美しいデザイン、すべてにおいてバランスのよい繊細なカトラリーを作ることができるのです。

私たちクチポールは、機能と品質と耐久性、美しさのバランスを追求しています。 文明の始まりから今日に至るまでの道具の進化と技術革新の過程に敬意を感じていますので、クラシカルで伝統的なカトラリーの機能やサイズを基準にしつつ、生活スタイルや新しいアイデア、そして市場の文化やお客様のニーズに合わせて調整をしています。

 

完成するまでの工程をお話いただけますか。

はい、新しいコレクションができるまでの具体的なステップをご紹介いたします。まず、デザイナーのジュゼ・リベイロが白紙にデザインをし、職人たちと一緒に既存の器具や部品を使い、手作業で調整しながら試作品を作っていきます。スプーンのツボの深さや高さ、ナイフの持ち手のサイズなど、試行錯誤し調整しながら、人間工学的で美しく、同時にクチポールならではのアイデンティティをもつように仕上げていきます。プロトタイプが完成すると、デジタル形式で再設計し、生産用の型やツールを作成していきます。

クチポール型制作

先ほども申しましたが、どうしても自動化できない職人技術が必要な工程にも対応できますし、細かいニュアンスを成形できる金型も自社で作ることができます。デザインのアイデアを形にするすべてのプロセスを私たちは自社内にもっているのです。

ちなみに、一つのアイテムが完成するまでには、もちろんシリーズやアイテムにもよるのですが、だいたい28工程くらいかかっています。フォークを磨くのにも12工程あるんですよ。複雑な工程は熟練技術者のノウハウが必要なので、作業できる人も限られています。生産が追いつかないのはこういったことも背景にあります。完成品を見て触っていただけばお判りになるかと思いますが、クチポールの製品は本当に手間をかけて作られています。こうして私たちはお客様に素晴らしい食の体験を提供し、私たちの製品を通じて食事の喜びが高められることに貢献できると信じています。

クチポール工場イメージ01
クチポール工場イメージ02

 

クチポールの代表的なコレクションについてお聞かせください。

「ゴア」は、クチポールのアイデンティティを革命的に変え、世界的な認知度を大きく向上させた点で、私たちにとっても特別な存在です。デザインと素材のイノベーションの象徴ともいえると思います。従来のステンレスのみで作られていたカトラリーに、異素材を組み合わせるというクチポールの技術は、カトラリー界に新しい世界を提供しました。GOAをはじめとする洗練されたシリーズによって、私たちは高級なダイニングシーンや才能溢れるシェフの方々、様々な文化に関われるようになりました。2017年のMETガラにGOAが選ばれたのも感慨深いものがあります。

現在「ゴア」シリーズは、多くの模造品が出回っています。模造品との戦いには課題が伴いますが、しかし、同時に模造品が作られるカトラリーは他にはなく、このことも「ゴア」がいかに現代のカトラリー界にインパクトを与えているかを表しているかと思います。とはいえ、模造品は写真のうえでは多少は似て見えるかもしれませんが、使われている技術、素材、すべてが全く別のものです。ぜひ本物を手に取って丁寧に作られた繊細な技術と品質の良さを体験していただきたいです。全く異なる次元にあることがおわかりいただけるかと思います。

GOAイメージ

 

最後に、ジョアオさんは自宅では何を使っていますか?

個人的にバウハウス的なデザインが好きなので家ではEBONYを使っています。シンプルで機能的であると同時に、モダンなスタイルとしても際立っている点で、とっても気に入っています。最近では、日本のお客様からの意見を取り入れ、少し小さめのサイズのEBONYの製造を始めました。

EBONYイメージ

クチポールのコレクションはどれも使い心地のよい美しいカトラリーですので、お好みで選んで使っていただきたいと思っています。

 

以上、とても素敵なお話を聞くことができました。
みなさまにも、クチポールのデザイン性や華やかさだけでなく、その歴史や技術面も、よりご興味を持っていただける機会となりましたら幸いです。

今後とも、クチポールをよろしくお願いいたします。